目や耳や手が不自由な人でも遺言書を書けるのでしょうか。

目や耳、手が不自由な人々が、遺言書を書くことは可能なのでしょうか?

遺言書は、私たちが亡くなった後に残された財産や遺志に関する重要な文書です。しかし、視覚や聴覚、手の自由が制限されている場合、このような書類を作成することは一見困難な課題のように思えるかもしれません。

今回は、相談者さまからの質問に回答する形で、解説していきます。

相談内容

私は40代女性です。私の弟は、子供の頃の病気により、目が見えず耳も聞こえまず、話すこともままならないです。知的な障害はなく、手も動きますので、お互い手の平にひらがなで文字を書いてコミュニケーションをしています。他にも兄弟姉妹はいるのですが、弟の世話をしているのは実際の所私だけです。そういうこともあり、弟は自分の財産をすべて私に譲りたいと言っています。弟はそのような遺言を遺すことはできるのでしょうか。

回答・解説

まず、遺言とは何か、自分の財産がどれくらいあるのか、などを理解していないということであれば、遺言能力がないので、遺言を遺すことはできないという結論になります。

本件では、弟さんに知的な障害はないということですので、遺言能力があることを前提としてお話をします。

公正証書遺言は、「遺言者が、公証人の面前で、遺言の内容を口授し、それを公証人が文章にまとめ、公正証書遺言として作成し、これを遺言者に読み聞かせて確認するもの」です。つまり、耳が聞こえ、話ができることを前提にしている制度です。ただし、平成11年の民法の改正により、一定の条件を満たせば、口がきけない人や耳が聞こえない人でも公正証書遺言を作成することができるようになりました

具体的には、耳が聞こえない場合、手話などの通訳をいれることによって意思表示を確認します。口がきけない場合、同様に、通訳人を交えることで遺言書を作成することができます。

また、目が見えない場合でも、公証人が遺言者の氏名を代書することは可能ですので、遺言書は残せます。

ただ、本件は、上記の障害が複合している場合です。このような場合どうなるかは調べてみましたが記録には出てきませんでした。ただし、おそらく、弟さんが文字を書くことができるかどうかがポイントになると思います。目は見えなくても自分の意思を紙面に文字で書くことができるのであれば、自筆証書遺言を遺すことができます。

一方、公正証書遺言の作成は難しいように思えます。というのも、耳が聞こえない人や口が聞けない人が通訳人を通じた遺言書の作成が可能なのは、遺言者の意思を公証人が客観的に確認できるからです。しかし、本件の場合、通訳人は貴方になると思いますが、弟さんの意思を正確に通訳できているかを担保する客観的な手段がないように思えるからです。このハードルをクリアできるのであればいいのですが、この辺りは、公証役場に前例があるかもしれませんので、お近くの公証役場に問い合わせてみるのがよいと思います。

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