遺言書について考える機会は、人生の節目や身近な人の経験を通じて訪れることが多いものです。しかし、「実際に遺言書を書いている人はどのくらいいるのか?」と聞かれると、具体的なイメージが湧かない方も多いのではないでしょうか。
今回、70代の女性から「子どもたちに勧められて遺言書を考えていますが、周りに書いている人がいないようなので、自分も必要ないのでは」といったご相談をいただきました。果たして遺言書の作成率はどれほどで、どのような意義があるのでしょうか?このコラムでは、遺言書の実情と作成のメリットについて解説していきます。
相談者からの質問
私は70代の女性です。先日夫が亡くなり夫の財産を相続しました。現在は一人暮らしをしていますが、子どもたちから遺言書を書くように勧められています。テレビなどでも遺言書を書くのがいいというのを聞いたりすることはありますが、私の周りの友達で遺言書を書いている人はいないと思います。そうすると私も書かなくていいのではないかと。実際のところ遺言書を書いている人ってどのくらいいるのでしょうか?
解説
遺言書とは、3つの種類があります。公正証書遺言と自筆証書遺言と秘密証書遺言です。
このうち、公正証書遺言は、公証役場で遺言書を管理するものですので、件数が明確にわかります。全国の公正証書遺言の作成件数は、令和5年が11万8981件、令和4年は11万1977件、令和3年は10万6028件、令和2年が9万7700件、令和元年が11万3137件でした。平成23年が7万8754件だったことを考えると増加傾向にあります。令和2年が減少しているのは、コロナ禍で公証役場に行くことを控える人が多かったからと推測します。正確さには欠けますが、毎年の死亡者数が130万〜140万人であることを踏まえると、8%くらいの方が公正証書を作成しているイメージとなります。
自筆証書遺言は、自分で遺言書を書いて自分で保管するものですので(最近は法務局での保管制度ができましたが)、実際の作成件数は不明です。ただ、家庭裁判所に持ち込まれた遺言書の検認数は、毎年1万5000件前後となります。秘密証書遺言については、年間100件程度です。デメリットが多くほとんど利用されていません。
平成30年に55歳以上の男女を対象に行なった法務省アンケート調査によると、「自筆証書遺言を作成したことがある」人の割合は3.7%で、「公正証書遺言を作成したことがある」人の割合は3.1%でした。いずれも、年代が上がるにつれ作成率が上がる傾向にはありました。
以上を踏まえると、遺言書を作成している人は全体の1割未満といってよいように思えます。ただ、遺言書(特に公正証書遺言)を作成することは大事であることに変わりはありません。周りが書いていないから私も書かないと考えるのか、周りは書いていないけど私は書くと考えるのか、を冷静にご検討いただければと思います。