2024.08.12
日本では、近年、伝統的な葬送方法に代わる新しい選択肢が注目を集めています。その一つが「海洋散骨」です。高齢化や都市化の進行により、従来の墓地を持つことが難しくなる一方で、自然との一体感を大切にしたいと考える人々が増えています。海洋散骨は、遺骨を海に還すという自由で解放感のある葬送の形で、多くの方に選ばれるようになってきました。このコラムでは、海洋散骨の基本的な内容から、具体的なメリットとデメリットについて詳しくご紹介します。
1. お墓を持たない弔い
高齢化や都市化が進む中、墓地の維持管理が難しくなる一方で、家族構成の変化やライフスタイルの多様化により、新しい葬送の方法が求められています。例えば、遺骨をお墓に埋葬する方法ではなく、自然に還す「散骨」という考え方が広がっています。 散骨は、従来の墓地管理の負担を軽減するだけでなく、より自由で個性的な葬送の形といえます。特に、「海洋散骨」は自然との一体感を感じられる象徴的な方法として、昨今支持されてきています
2. 海洋散骨とは
海洋散骨とは、遺骨を粉末状にし、これを海洋に散布する葬送方法です。日本では、法律上海洋散骨は禁止されておらず、違法というわけではありません。ただし、他の海洋利用者や環境への配慮はすべきであり、「節度を持って行われる限り自由」と解釈されています。
実際には、散骨する場所や方法などにつき各種ガイドラインが制定されています。多くの業者は、このガイドラインに沿って、散骨を行います。
具体的には、遺族や友人などが船に乗り、海岸から一定程度離れたところまで進み、故人を偲びながら海に遺骨を撒く儀式を行います。
3. 海洋散骨のガイドライン
公的機関では、厚生労働省が散骨事業者向けに「散骨に関するガイドライン」(*1)を公表し、さらに海洋散骨に関しては国土交通省が「海上において散骨をする場合において遵守すべき海事関係法令の解説」(*2)を発表しています。
業界団体では、一般社団法人日本海洋散骨協会が「日本海洋散骨協会ガイドライン」(*3)を策定し、安全かつ安心で周囲から理解を得られる海洋散骨を宣言するとともに、次の7つの義務を表明しています。
- 粉骨の義務
- 散骨場所の選定義務
- 自然環境への配慮義務
- 参列者の安全確保義務
- 散骨意思の確認義務
- 散骨証明書の交付義務
- 一般市民への配慮義務
このように海洋散骨事業者には、適切な海洋散骨のためガイドラインに沿った取り組みを行うことが求められています。
*1:https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000763737.pdf
*2:https://www.mlit.go.jp/maritime/content/001719106.pdf
*3:https://kaiyousou.or.jp/guideline.html
4. 海洋散骨のメリット・デメリット
最後に、海洋散骨を行うことのメリットとデメリットをまとめます。
<メリット>
-経済的負担の軽減:墓地の購入や維持管理費用が不要になる
-環境への配慮:遺骨が自然に還るため環境に影響を与えない
-自由と解放感:場所に縛られず自由に故人を偲ぶことができる
<デメリット>
-供養の場所が不明確:具体的に葬送した場所が明確でないのが不安と感じる
-遺族間の意見の相違:散骨を選択することについて遺族間に意見の違いが生じる可能性
以上のようなメリット・デメリットがありますが、最も大事なことは、故人の意思です。遺族間で争いの元となることを避けるため、散骨を考えていらっしゃる方は、遺言書やエンディングノートでご自身の葬送方法について希望を明確に残しておくのがいいと思います。
まとめ
海洋散骨は、伝統的な墓地に代わる新しい葬送の形として、多くの人々に選ばれています。その自由さや経済的なメリット、環境への配慮が評価される一方で、供養の場所が不明確であることや、遺族間での意見の相違といったデメリットも存在します。最も大切なのは、故人の意思と遺族の心の平穏を尊重することです。散骨での葬儀を希望する場合は、事前に遺言書やエンディングノートで希望を明確にし、家族と十分に話し合っておくことが重要です。
海洋散骨は、一人ひとりの人生の終わりを、より自然で心地よい形で迎えるための選択肢の一つです。今後も、多様化するライフスタイルに合わせた、個々に最適な葬送方法が求められることでしょう。
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