今回は、普通の資産をもつ60代の女性から相続対策の必要性に関するご質問をいただきました。相続対策の必要性についてわかりやすく解説いたします。
相談者からの質問
私は60代の女性です。夫は他界しました。娘が3人いますが、同居している娘から、相続対策をきちんとしてほしいと言われました。でも、相続対策をするべきなのは、全体の数%のお金持ちだけでいいとどこかで聞いたこともあります。私は持ち家と預貯金が少しあるくらいの普通の人間です。娘たちは3人とも仲がいいですし、私は相続対策をしなくてもいいのではないでしょうか。
解説
相続に関するよくある誤解として、「お金持ちでない家庭は相続争いにはならないから相続対策はお金持ちだけがすればいい」というものがあります。
これは2つの点で誤解があります。
1つ目は、相続対策はすべての家庭が行うべきである。
2つ目は、お金持ちでない家庭でも相続争いにはなる。
ということです。
1つ目についてですが、これは「相続税対策」と「相続対策」を混同していると思われます。相続税の対象となる人の割合は全体の8.3%です(国税庁ホームページ 令和元年)。相続税の基礎控除額が改正された平成27年に倍増しましたが、それでも10人中1人未満の割合ではあります。したがって、貴女の資産が基礎控除額以内に収まりそうなのであれば相続税対策をしなくていいのはそのとおりかもしれません。(ちなみに基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」なので、本件では4800万円となります。)
しかし、相続税対策が、いかに納めるべき相続税を抑えるか、という視点で行うものであるのに対して、相続対策というのは、自分の資産をいかに納得感のある形で分配するか、という視点で行うものです。前者が対国家であるのに対し、後者は家族の絆を弱体化させない共同事業です。
したがって、すべての人が相続対策というのを検討してほしいと思います。貴女の場合、娘さん3人は全員仲がいいから仲良く3等分すればいいと考えていらっしゃるかもしれません。しかし、うち1人は貴女と同居しています。今後貴女のお世話をし、介護をし、看取る立場なのかもしれません。それでも単純に3等分するのが公平なのかは検討してみてもいいでしょう。そして配分を決めたら、皆に説明するのがいいと思います。その上で公正証書遺言にすることをおすすめします。
2つ目についてですが、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件のうち4分の3は遺産価額が5000万円以下の事件です。お金持ちの定義にもよりますが、富裕層に限らず一般家庭でもたくさんの相続争いが裁判所まで持ち込まれているということは知っておきましょう。